IBMの科学者チームが量子コンピュータの実用化に向け重要な進歩を遂げる


TOKYO - 01 5 2015:

2015年5月1日

システム動作の阻害要因を克服する2つの画期的な発表

[ニューヨーク州ヨークタウンハイツ 2015年4月29日発]

IBMの科学者チームは、本日量子コンピュータの実用化に向けた2つの大きな進歩を発表しました。今回初めて、2種類の量子エラーを同時に検出し計測する機能と、より大規模化が可能な唯一の物理アーキテクチャーである新しい正方格子量子ビット回路を実証しました。

ムーアの法則が限界を迎えつつあると予測されている中、量子コンピューティングは業界全体にわたり新しい変革の時代をリードする発明のひとつです。量子コンピュータは、現在のコンピュータでは不可能な最適化とシミュレーションの分野で新しい機能を開拓します。もし、1台の量子コンピュータを50量子ビット(キュービット)で構成することができれば、現在のTop500のスーパーコンピュータを組み合わせても敵わない性能を達成することが可能であるともいえます。

IBMの画期的な成功は『ネイチャーコミュニケーション』誌4月29日号に掲載されています(DOI:10,1038/ncomms7979)。実際にどんな量子コンピュータでも起こる2種類の量子エラー(ビットフリップと位相フリップ)を検出し計測する機能を初めて示しています。これまではどちらか一方の量子エラーにしか対応できず、両方同時に検出することはできませんでした。2つのエラーの同時検出は、現実的で確実な大規模量子コンピュータの設計に必須の要件となる量子エラー訂正にとって重要なステップです。

IBMの革新的で複雑な量子ビット回路は、約四分の一インチ四方のチップ上にある4つの超電導量子ビットの正方格子に基づいて、2種類の量子エラーを同時に検出することができます。2種類の量子エラーを同時に検出することを妨げるリニアアレイに対して正方形の設計を選択し、動作中の量子システムに達するためにより多くの量子ビットを加えることで、IBMの設計は最適な可能性を示しました。

「量子コンピューティングは革新的で、現在では解決できない、または解決が難しい課題を解決する可能性を秘めています。量子コンピュータは従来、暗号化を研究してきましたが、今は解決できない物理や量子化学の分野の課題を解決する実用的な量子システムについてとても高い可能性を持っていることを発見しました。これは、物質や医薬の設計に新しいアプリケーションの領域を切り拓く大きな可能性を秘めています」と、IBM研究所の上級副社長のアーヴァインド・クリシュナ(Arvind Krishna)は述べています。

例えば、物理学と化学の分野で、科学者たちは量子コンピューティングにより、研究所でコストがかかる試行錯誤をすることなく、新しい素材や薬剤化合物を作ることができ、多くの業界で革新のスピードを速めること可能性があります。

ビッグデータによって消費される世界にとって、量子コンピュータはかつてない大型データベースと、大量の蓄積された多様な非構造化データを迅速に処理します。これにより、人の決断の仕方や業界全体で研究者が重要な発見をする方法が変わるかもしれません。

量子コンピューティングの利用法を模索する科学者にとって最も大きな課題のひとつが、熱、電磁放射、材料欠陥からの干渉によって引き起こされる計算過程でのエラーの原因となるデコヒーレンスをコントロールあるいは除去することです。量子情報はいたって脆弱な為、量子システムにおけるエラーは特に深刻です。

「今まで、研究者たちはビットフリップあるいは位相フリップ量子エラーを検出することはできましたが、両方を一緒に検出することはできませんでした。この分野におけるこれまでの研究は、リニアアレイを用いてシステムの量子状態に不完全な情報を与えるビットフリップエラーのみを注目しており、量子コンピュータにとっては不十分なものでした。当社の4つの量子ビットが両方の種類のエラーを検出することによって、過去のハードルを乗り越え、量子ビットがリニアアレイとは対照的に正方格子に配列されているため、より大規模なシステムに対応できます」とIBMの量子コンピューティンググループのジェイ・ギャンベッタ(Jay Gambetta)は述べています。

IBMの研究は、IARPA(Intelligence Advanced Research Projects Activity:情報先端研究プロジェクト活動)のマルチ量子ビットコヒーレント・オペレーションプログラムの一部として助成されています。

量子エラーの検出
典型的なコンピュータが理解する最も基本的な情報はビットです。オン、オフがスイッチできる光線のように、ビットは「1」か「0」の2つの値のうち1つの値しか持つことができません。しかし、量子ビットは「1」または「0」に加えて同時に両方を持つことができ、重ね合わせとして「0+1」のように表示されます。0および1の両方の状態がお互いに位相関係を持っているため、この重ね合わせのサインは重要です。重ね合わせの特性により量子コンピュータは、従来のコンピュータよりもかなり速く数百万の候補から正しいソリューション選択することができます。

2種類のエラーはこのような重ね合わせの状態で発生します。ひとつはビットフリップと呼ばれ、0から1、または1から0に反転するものです。これは古典的なビットフリップエラーと類似しており、過去の研究では量子ビット上でこのようなエラーを検出する方法を示していました。しかし、それでは量子エラー訂正に十分ではありませんでした。重ね合わせ状態で0と1の間の位相関係のサインを反転させる位相フリップエラーも生じるためです。正しく機能するために量子エラー訂正にとって両方のエラーが検出されなくてはなりません。

全ての既存の量子技術は物質や電磁放射に作用する際にその情報を失ってしまう為、量子情報は非常に脆弱です。理論家たちは、多くの物理量子ビット全体に情報を広げることにより、情報を長持ちさせる方法を発見しました。「表面符号」は、量子情報が多くの量子ビットに広がる特定のエラー訂正のための技術的な名称です。これにより最も近い量子ビットのみが論理的な量子ビットをエンコードするために作用し、十分に安定したエラーのない操作を可能にします。

IBMの研究チームは、他に2つの量子ビット(コードまたはデータ量子ビット)上に蓄積された量子情報を明らかににする、2つの独立したシンドローム量子ビットを計測するために様々な技術を使いました。特に、片方のシンドローム量子ビットがコード量子ビットのどちらかにビットフリップエラーが生じているかどうかを示す一方で、もう片方のシンドローム量子ビットが位相フリップエラーが生じているかを示します。コード量子ビットにおける相互の量子情報を決定することは、量子エラー訂正に必要なステップです。なぜなら、コード量子ビットを直接計測すると、その中に含まれる情報を破壊してしまうからです。

このような量子ビットは標準のシリコン製造技術で設計・製造できるので、わずかでも超電導量子ビットが確実に繰り返し製造されるようになり、エラー発生率を低くコントロールできれは、より大規模の量子ビットの格子におけるエラー訂正を実証するための基本的な障害はなくなるといえます。

このような成果は、IBMが1981年のPhysics of Informationのこの分野の初めてのワークショップにIBMが参加して以来、30年以上にわたる量子情報処理への貢献を示すものです。

IBMリサーチについて
70周年を迎えたIBMリサーチは継続してテクノロジーの未来を明らかにしていきます。世界12カ所の研究所には3,000名以上の研究員が所属しています。IBMリサーチの画期的な研究成果により、IBMが2014年に取得した米国特許が業界記録の7,534件となり、米国特許取得数は22年連続で第1位となりました。IBMリサーチからは、6名のノーベル賞受賞者をはじめ19名のNational Academy of Sciencesメンバー、20名のU.S. National Inventors 殿堂入りを輩出しているほか、U.S. National Medals of Technologyの受賞歴10回、U.S. National Medals of Scienceの受賞歴5回、Turing Awardの受賞歴6回の実績を残しています。詳しくは、http://www.research.ibm.com(US)をご覧ください。

当報道資料は、2015年4月29日(現地時間)にIBM Corporationが発表したプレスリリースの抄訳です。原文は下記URLを参照ください。
http://www.ibm.com/press/us/en/pressrelease/46725.wss

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